雨上がりの栞
小説・全3話
雨の日だけ開く、小さな駅の図書室。返しそびれた一冊を届けに来た澪は、十二年前の約束に出会う。
タグ:雨上がり、栞
冒頭
澪がその駅で降りたとき、時計の針は12時を少し回っていた。
改札はひとつ。駅員の姿はなく、切符を入れる木の箱だけが置かれている。屋根の先から落ちる雨粒が、空き缶の底を一定の間隔でたたいていた。
鞄の中には、返しそびれた本が一冊ある。
青い布張りの表紙。題名の金文字はほとんど擦り切れていた。十二年前、この駅の待合室で借りた本だった。
返却期限の紙には、子供の字でこう書かれている。
雨があがるまでに、返してください。
あの日は、帰るころには晴れていた。祖母に急かされて列車に乗り、借りたことさえ忘れてしまった。それから転居して、駅の名前も記憶の底に沈んでいた。
先週、実家の押し入れを片づけるまでは。…